アルピーヌの黄金時代「A110」がラリーシーンを席巻
そして、63年には初期アルピーヌの集大成とも言えるA110がパリサロンで発表されました。
オリジナルの交換フレームのシャシーに搭載されたのは、ルノーR8(ユイット)用の956cc水冷直4OHVで、最高出力は48psに過ぎませんでしたが、その翌年には、ルノー車のエンジンチューナーとして著名なアメデ・ゴルディーニが、R8の上級グレードに搭載されていた1100ccエンジンをベースに、徹底的にチューニングを施した1100ゴルディーニが登場します。
最初のモデルの2倍近い出力となる96psを叩き出しました。
その後は1300cc、1500cc、1600cc(レース仕様では1800ccも)と排気量を段階的に拡大して行き、それに合わせて出力も向上し、シリーズ最強の1600Sでは最高出力129psを叩き出したのです。
また、A110では販売拡大を狙ってベルリネッタ、クーペ、カブリオレ、GT4の4種類のボディが用意されたことも特徴でした。
デザイナーはA106、A108に引き続きミケロッティが担当しました。
軽量小型でハイパワーなA110は、公道レースや初期のWRCで大活躍。1971年のモンテカルロラリーで総合優勝を収めたほか、数々の競技で勝利を掴みました。
その結果、モータースポーツでの活躍によってアルピーヌの名は不動のものとなったのです。
A110は商業的にも大成功し、同社の生産期間中にアルピーヌは、フランス北西部の大西洋に面したディエップに本社機能と工場を移転。自動車メーカーとして本格的な量産体制を整えたのです。
加えて、A110の名声はフランス国外にも響き渡り、スペイン(FASAルノー)、メキシコ(ディナルフィン)、ブラジル(インテルラゴス)、ブルガリアでもノックダウン、あるいはライセンス生産が行われたのでした。
アルピーヌの斜陽「A310」デビューからブランド休止まで
しかし、1972年にツールド・フランスでランチアが、ラリー専用設計の超軽量小型ボディに、強力なフェラーリ・ディーノ246GTのV6エンジンをミドにマウントしたストラトスを登場させると、ラリー競技の場で非力なA110は、次第に活躍の場を失って行くことになったのです。
ラリー人気で名声を得たアルピーヌでしたが、後継車種となるA310はより大きく、豪華な、グランツーリスモ的なキャラクターとなります。この当時のスポーツカーメーカーがそうであったように、アルピーヌもまたポルシェ911の市場を意識したクルマ作りを行ったのです。
ところがA310の車重は、A110 1600Sに対して、100kgも重い830kgになったのにもかかわらず、エンジンはルノー12用の1605cc水冷直4OHVをチューニングしたものを搭載したため、最高出力は127psに留まり、市場からは「車重に対してエンジン性能が非力過ぎる」との評判が立ちました。
後期モデルではプジョー・ルノー・ボルボ(PRV)が共同開発した2664cc水冷V6OHCを搭載し、最高出力は150psへと改善されましたが、車重はますます重くなり、A110にあったライトウェイト・スポーツカーの乗り味は完全に失われました。
その間にアルピーヌは、過剰な投資が祟って経営が悪化。1973年にレデレ家はルノーに株式を売却し、アルピーヌはルノーの傘下に収まりました。
その5年後、創業者のルデルはアルピーヌの経営から完全に身を引くことになったのです。
その後、アルピーヌはルノーの子会社として、ルノーの量産大衆車5(サンク)のハイパフォーマンスバージョンに名称を貸し出すなどしたほか、競技車両の製作などを行い、それらへの部品供給を担当しました。
ディエップの工場からはA310の後継車種に当たるV6GT、V6ターボ、A610が相次いでラインオフして行きましたが、傑作車・A110を上回る人気を獲得することはできず、ブランド休止まで失地回復を図ることができませんでした。
1995年にA610の生産が終了すると、アルピーヌブランドでの活動は休止しましたが、アルピーヌ社とディエップ工場は存続し、ルノースポールのブランドで、ルノー・スピダーの開発・生産を担当したほか、2代目クリオRS(日本名ルーテシアRS)、クリオV6、2代目メガーヌRS、3代目クリオ RSの製造を担当しました。
(ただし、すべてのルノースポールブランドの生産を担当したわけではありません。ラインナップの一部はルノー工場で生産が行われています。)
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